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令和4年度 入試雑感

新国語問題集編集委員による、令和4年度の入試傾向分析です。
第53集の解説書巻末に掲載しています。
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※以下は、入試雑感の内容を弊社編集部員が簡潔にまとめ、コメントしたものです。
※『作品名』の前の数字は、掲載されている問題番号を示しています。

現代文編(クリックで拡大)
古典編(クリックで拡大)

文学的文章

① 小説を出題する国公立大学は例年と変わっていない。

② 小説は例年通り心情を細やかに読み取らせる設問が多く出題された。

  • 21『虎』久米正雄(広島大)…大衆演劇で人間以外の役を専門にしている主人公が屈折を抱えながらも、演じることに目覚めていく話。
  • 22『声の山』黒井千次(大阪大)…父との山登りの経験を通して、父が抱える「喪失」に気付く少年の物語。

③  東大・京大はともに、芸術家の随想からの出題。

  • 23『日本の伝統』岡本太郎(京都大)…芸術論に関する随筆。「伝統とは何か」
  • 24『影絵の鏡』武満徹(東京大)…超越的なものとの邂逅の中で得られた貴重な感覚について述べた随筆。

★新傾向問題★
 18『ヒットラーのむすめ』ジャッキー・フレンチ(宮城教育大)…出典の一場面と訳者のあとがきとを並べて複数文による出題。

論理的文章

●全体としては、質・量ともに難度の高い本格的な問題が多く出題された。
→読み応えのある文章を出題し、本格的な読解力や広い教養、深い思考力を問いたいという大学側の狙いが感じられる。

〔テーマ性〕
①  現代における社会問題を掘り下げたテーマ

  • 3『〈不可知性〉の社会』柴田悠/『もうひとつ別の経済へ』大澤真幸(佐賀大)
    ★新傾向問題…いずれもコロナ後の世界を私たち人類がどう生きていくべきかを考える評論。複数文による出題。
    最後の問いは、複数文の論述の視点の違いを条件①~③を踏まえて〔語群〕の語を使いながら記述させる問題。記述量も目安240字とかなり多め。
  • 7『ディズニーと動物』清水知子(静岡大)…ディズニーの自然記録映画の作られ方を例に、本物らしい偽物を戦略的に作ることについて考える評論。
    最後の問いは、本文の一文について、現代の文化や社会に見られる同様の例を挙げ、その功罪について考え、述べさせる問題。記述量も250字以上300字以内とかなり多め。
  • 10『交わらないリズム』村上靖彦(名古屋大)…現代人にとっての「居場所」の無為や遊びの持つ意味を論ずる文章。
  • 12『法と社会科学をつなぐ』飯田高(大阪大)…「インセンティブ」という概念についての文章。
  • 17『ナショナリズム、その〈彼方〉への隘路』鵜飼哲(東京大)…現代における分断やナショナリズムの根源を問い直す文章。

②  広い意味で人間のあり方について考察した文章

  • 2『日本人と神』佐藤弘夫(岡山大)…神という視点から「近代」を見る文章。
  • 6『フッサール 心は世界にどうつながっているのか』門脇俊介(滋賀大)…私を超越した世界が私の心とどうつながっているのかを、哲学的に考察した文章。
  • 8『民藝の機微 美の生まれるところ』松井健(大阪公立大)…民藝の、作為や個性を超えつつも創造性を持つうつくしさについて論じた文章。
  • 9『曠野から アフリカで考える』川田順造(九州大)…現代のアフリカ社会を通して人間の理想の「自然状態」を考える文章。
  • 11『手の倫理』伊藤亜紗(北海道大)…触覚の考察を通して、人間の身体性について論ずる文章。
  • 14『小林秀雄のこと』二宮正之(東北大)…小林秀雄の言葉を手掛かりに、「能率的」とは区別された「合理的」の本質を考察する文章。
  • 15『分析哲学 これからとこれまで』飯田隆(神戸大)…日本語で書かれた哲学の未来を感じる文章。
  • 16『〈邪読〉について』高橋和巳(京都大)…「創造的読書とは」を考察する文章。

古文

① 有名作品からの出題が増加。(一昨年からこの傾向に。)

  •  7『紫式部日記』(岐阜大)、8『建礼門院右京大夫集』(京都大)、14『伊勢物語』(神戸大)、16『大和物語』(大阪大)、18『浜松中納言物語』(東京大)など

② 問題分量が増加・難化した大学が多い。

  • 増加9『讃岐典侍日記』(九州大)など
  • 難化18『浜松中納言物語』(東京大)、8『建礼門院右京大夫集』(京都大)、16『大和物語』(大阪大)など

③ 和歌に関する設問は多く出されている。

漢文

① 易化は落ち着きを見せた

② 記述の量は減少傾向であったが、今年はやや多い

  •  名古屋大150字など。他にも70~100字の記述が目立つ。

③ 句法・用法に関する問いが多い。再読文字・反語・使役などの例年頻出のものだけでなく、受身・仮定・限定・比較・選択・比況・抑揚など幅広く出題あり。難関大には句法に頼らず文脈から考える問題もあり。

④ ジャンルは、随筆・評論、日本漢文、思想、詩、歴史、逸話、説話的文章、言行録から幅広く出題。詩は減少

  •  日本漢文:26『愛日楼全集』(名古屋大)など
  •  歴史的文章:22『史記』(広島大)、21『戦国策』(岐阜大)など
  • 逸話的文章:24『望渓集』(神戸大)、20『蒙求』(愛知県立大)など
  •  説話的文章:19『幽明録』(大阪大)など

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