万葉仮名で古代人と遊ぶ

万葉仮名で古代人と遊ぶ

2021年09月17日

こんにちは、京都書房編集部のMです。朝晩が少しずつ涼しくなってきましたね。

さて、今日は「万葉仮名」のお話です。
「古文は同じ日本語なのに読めない! 難しい!」と苦手意識を持っている生徒さんには、「そもそも今の日本語ってどうやってできたんだろう?」という大元からひも解くと、少し興味を持ってもらえるかもしれません。
よろしければ、授業の導入などにご参照ください。

大昔、日本にはまだ文字がなく、話し言葉しかありませんでした。しかし次第に「伝達する」手段として、文字の需要が高まっていきました。
文字を作る方法としては、大きく二つ考えられます。一から文字を生み出すか、すでにある文字を借りるかです。
結果として昔の日本人は、お隣の国で使っていた「漢字」を借りて、日本語を表記することにしました。諸説ありますが、これが大体4世紀ごろのことです。

文字を借りるのは、一から生み出すより簡単そうに見えますが、これはこれで大変でした。
漢字だけでは日本語をうまく表現できないケースが出てきて、そのたびに日本人はさまざまな工夫を凝らします。
その工夫の一つが「万葉仮名」でした。この時点で文字はまだ漢字しかありません。

漢字にはその特徴として「表意性」がありますが、それを無視して「音」だけを使って日本語の発音を表現したのが「万葉仮名」です。
例えば「余能奈可波」で何と読むでしょう? 意味は無視、音だけを拾って「よのなかは」と読みます。
こうして日本人は万葉仮名を使うことで、日本語を一音ずつ正確に表記できるようになったのです。

「万葉仮名」は文字通り、『万葉集』でよく用いられたのでこの名がつけられました。
日本人は借り物の漢字で、自分たちの文化である「和歌」も表現できるようになりました。

由吉能伊呂遠 有婆比弓佐家流 有米能波奈
伊麻左加利奈利 弥牟必登母我聞

ゆきのいろを うばひてさける うめのはな
いまさかりなり みむひともがも

【現代語訳】
雪の色を奪ったように白く咲いている梅の花は今が盛りだ。
誰か見る人がいてくれたらよいのに。
(大伴旅人『万葉集』巻5・850)

和歌一首分の万葉仮名が並ぶと、「よくぞここまで頑張った!」と昔の日本人の苦労を称えたくなりますね。
そして古代日本人のすばらしさは、これだけでは終わりません。大変な苦労をして工夫を凝らすだけでなく、それを「楽しむ心」も忘れませんでした。
万葉仮名の「戯書」には、その楽しむ心があふれています。

「戯書」とは、万葉仮名にいくつかある用字の一種です。
詳しい説明は割愛しますが、例を見ていただければ古代日本人の遊び心が伝わると思います。

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玉こそば 緒の絶えぬれば 「八十一里」つつ…

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一部だけ万葉仮名で表記しましたが、「八十一里つつ」で何と読むかというと「くくりつつ」です。
さて、「八十一」でなぜ「くく」と読むのでしょうか?
「八十一」=「九×九」で「くく」なんです。奈良時代の日本人はすでに掛け算の九九を知っていたんですね。(九九は古代中国で作られて日本に伝わりました。)
こうした遊び心あふれた当て字のような読み方が、万葉仮名の「戯書」です。

さあ、古代日本人とのとんち比べです。
「三五月」で何と読むでしょう? 先ほどの九九がヒントです。答えは「もちづき」。
「三五」=「三×五」なので「十五月」、つまり満月の「もちづき」というわけです。

こうした数あそびのような読み方以外に、「漢字の形」で遊んだ戯書もあります。

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…色に「山上復有山」ば人知りぬべみ

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さて「山上復有山ば」の読み方は?
「漢字の形」で考えると、「山」の上にまた「山」がある漢字……そう、「出」なので「いでば」と読みます。もはやなぞなぞですね。

ほかにも「動物の鳴き声」を表すものとして、「牛鳴」と書いて「む」(牛の鳴き声)と読ませるなど、さまざまな戯書があります。
こうした戯書を足掛かりにすると、はるか昔の奈良時代の人々を少し身近に感じられるかもしれません。

そして日本人はさらに万葉仮名から「平仮名」や「片仮名」を作り出し、現在の漢字かな交じりの日本語表記を確立させていくのです。

 

2022年度から高校で新学習指導要領が導入されますが、国語の新しい科目である「言語文化」の内容の一つとして、「時間の経過や地域の文化的特徴などによる文字や言葉の変化について理解を深め、古典の言葉と現代の言葉とのつながりについて理解すること。」という一節が加わりました。(文部科学省「高等学校学習指導要領」による)

京都書房では、こうした新学習指導要領に対応する国語資料集『新訂国語図説六訂版』を刊行する予定で、その中で「言語文化」や「現代の国語」に関する巻頭特集ページを掲載しています。
今回のコラムでご紹介した「万葉仮名」などの文字や文体の変遷についても取り上げていますので、刊行の際はぜひ一度ご覧ください。

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