『枕草子』タイトルの謎

『枕草子』タイトルの謎

2021年01月12日

新年あけましておめでとうございます。
京都書房編集部のMです。
このコラム「京書だより」では、高校国語や国語教育についてのよもやま話を、編集部員が順番にお届けしていきます。
「これ面白いな」というお話があれば、授業の導入などに使っていただけると幸いです。

さて、今回は「古典作品のタイトル」についてのお話です。
「名は体を表す」という言葉がありますが、本などのタイトルは、その作品のテーマなどをズバリと言い表したものが多いですね。

例えば『源氏物語』では、主人公である光源氏がつむぐ物語という、題材そのもののタイトルがつけられています。
『徒然草』というタイトルも、「つれづれに日々の様々なことを書いていく」という作品のテーマを美しく表していますよね。

では、古典作品としては非常に有名な『枕草子』。
このタイトルは、どんなテーマや意味を表しているのでしょうか?

「草子」の部分は何となく、「書物や冊子かな」と想像できますが……「枕」とは?
寝るときに頭に当てる枕でしょうか? もしくは、枕には「話の前置き」という意味もありますよね。
「歌枕」や、落語のマクラなど……
しかし、「話の前置きの書物」とつなげてみても、枕草子の内容を考えるとあまり当てはまらない気がします。
では、枕草子のタイトルにはどんな意味が隠されているのか?
今回は、「古典作品のタイトル」の中でも特に、『枕草子』のタイトルの謎を追いたいと思います。

実は、多くの方が同じ疑問を抱いているようで、枕草子のタイトルの由来については、昔からあれこれ推測されてきました。
もちろん作者である清少納言に直接確認することはできませんが、有力な説がいくつかあります。

それをご紹介する前に、少し前置きを。
「タイトルの謎」と最初に言いましたが、実はタイトルの由来については、枕草子の跋文(ばつぶん)、つまりあとがきのようなもので、触れられているのです。

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《跋文 原文》
宮の御前に、内の大臣の奉りたまへりけるを、「これに何を書かまし。上の御前には史記といふ文をなむ、書かせたまへる」などのたまはせしを、「枕にこそは侍らめ」と申ししかば、「さは得てよ」とて給はせたりしを、……
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この「枕にこそは侍らめ」という部分が、タイトルの由来だと言われています。
しかし、その意味やいかに……というのが、いろいろな推測を呼んでいるんですね。

跋文をそのまま解釈すると、
藤原定子(清少納言が仕えた中宮)が、内大臣からもらった上質な紙に「何を書こうかしら?」と清少納言に相談したんですね。「一条天皇は史記を書き写してるようだけれど……」と。それに対して清少納言が、「それなら枕でございましょう」と答えたのです。
すると、「ではあなたにあげるわ」と定子は紙を清少納言にくださった。

これをきっかけに、清少納言は枕草子を執筆したと言われています。
「それなら枕でございましょう」の「枕」とはどういう意味か。そこは才女で名の通った清少納言、枕に色んな意味を込めているのでは、と深読みしていくわけですね。

では、前置きは以上として、今回は「枕」の意味として有力な説を3つご紹介します。
※説の命名は、Mが適宜つけたものですのでご了承を。

①シャレ説
定子が「史記」と言ったのに対し、「しき」=「敷布団」「しきたへ(枕の枕詞)」と連想し、「ではこちらは枕でいきましょう」と答えたというのが「シャレ説」です。
「敷布団」と「しきたへ」を重ねて連想するあたり、さすが清少納言と言える説ですね。

②シャレ合わせ技説
史記(しき)→敷布団・しきたへ→枕
のシャレに、「史記」=「四季」をプラスしたのが、シャレ合わせ技説です。「一条天皇が史記を書き写しになるなら、こちらは四季を枕にした作品を書きましょう」というわけです。

③普通名詞説
枕草子が書かれた当時、「枕草子」という言葉は普通名詞として使われていました。意味はこれも諸説あるのですが、
1.備忘録や日記帳などの書物
2.歌枕の解説書
などの意味で使われていたようです。
つまり、そのまま「ではこちらは枕草子を書きましょう」と言ったという説ですね。

枕草子タイトルの謎、3つの説はいかがでしたか?
どれもありえそうな説ですが、私個人としては、「シャレ合わせ技説」を推したいところです。

清少納言がとっさに「シャレ合わせ技説」のような切り返しをしながら、知的な会話を楽しんでいたと想像するだけで、わくわくしませんか?

また、当時は今と違って、紙はとても貴重でした。その貴重品を、定子はこの会話のあとにポンと清少納言にくださった。
それは、この清少納言の機転にあふれた返答への、定子のご褒美だったのかもしれません。

そう考えると、『枕草子』のこの跋文は、タイトルの由来がわかるだけでなく、定子と清少納言の信頼関係が垣間見える一例とも言えるかもしれませんね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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